2006年01月11日

プチ・スポーツ小説第1

今日から新しい試みとして(^-^)「プチ・スポーツ小説」なるものを連載にて書いてみようと思います(^-^)
小説を書くような才はないと自覚しつつも、皆さんに楽しく読んでもらえれば・・・と思います(^-^)


食欲を誘うニンニクの臭気と豚骨スープの油っぽいが甘さを含んだ空気に満たされた空間の中で、僕と子ども達9人は夢中になってラーメンをすすっている・・・

店の戸をガラガラと開けた瞬間、店内は人の熱気と笑い顔で満たされていた。
店の棚の上に置かれているテレビからは、広島カープと中日ドラゴンズの一戦が流れている。
3対2と広島がリードしていて、カープの先発のK投手がドラゴンズのT選手と勝負している場面。

お客さん達はしばし、箸を休めて画面に食い入っている。
一球ごとにフーッという大きな息を吐き出してブツブツ何やら呟いている。
しかし、僕は何故か分からないがカウンターの中で脇目もふらず、ただラーメンを作っている一人の男から目が離せない・・・

「何故なんだろう・・・」彼は額から流れる汗を拭う時間さえも惜しむかのように大きな鍋の中で麺と格闘している。
その左手はとても大きく骨張っている。「サウスポーかぁ・・・」僕は野球をやってきたからついつい左利きをそのように呼んでしまう。「しかし、器用な手捌きだよな」茫然と見つめてしまう。
何でこんなにもこの男の事が気になるのだろう・・・
確かに美味しいラーメンではあるが、それとは関係のないところで僕はこの男に引き付けられている。「気持ち悪い、もう考えるのはヤメ、ヤメ」そう思った矢先に、画面の中の野球に熱中していたお客の一人が大声でカウンターの中のその男に声を掛けたのだ。

「よっ!!ヨシさん、投げたいじゃろ」男は少し照れ臭そうに、それでいて優しく目尻に皺を作って「もう昔のことじゃけぇ」とポツリと応対し、また厳しい顔つきに戻りラーメンを器用に器に盛り付けている。

「このオッサンは草野球をこのお客さん達とやってたんだな・・・」僕はボンヤリとそんな事を考えながら、職人としての誇りに満ちた横顔をチラチラ見てしまっているのだ・・・
さほど体は大きくない、体の線も・・・ただサウスポーの左手だけは力強そうに感じる。

昔、草野球で投手でもやっていて、この店が溜り場にでもなってたんだろう。
お店が忙しくなったか、年齢のせいか、何かの理由で今は野球はやめている。だけど昔の馴染みで仲間が集ってんだろう・・・勝手な推論を立て僕はラーメンのスープを口に運ぶ。
子ども達はさすがに中学生。とっくにスープも全部飲み干して画面の野球中継を食い入るように見つめている・・・

「そろそろ店を出て、こいつらも帰さなきゃ」そう思いつつ最後のスープを一口。
しかし、美味しいラーメンを作り出す。きっと厳しい修業を積んできたのだろう。
相変わらず、忙しそうにサウスポーの左手を動かしている男の姿を横目に見ながら、熱気の残るお店の外に出ていった・・・何だか燻る思いを抱えたまま。
何かが僕の胸につっかえている。
「何だろう、この思いは・・・」
posted by Takahata at 11:33| Comment(0) | TrackBack(0) | ■スポーツ小説■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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